帰省中はゲームから離れてずっと本を読んでました。
そのうちの一冊が羽田圭介著『Phantom』。
『週刊プレイボーイ』の連載エッセイ「作家・羽田圭介 資産運用で5億円の豪邸を買う。」で初めて触れた芥川賞作家です。
その後はTBSラジオ「ACTION」やテレビ東京「バス旅Z」で喋ったり動いたりする姿をちょくちょく目に耳にしていました。
興味は持ちながらもこれまで小説は読んだことがなかったんですが、ちょうど貸出可になっていた本書を今回図書館で借りてみました。
2021年の本作発表時からずっと読みたかったんですよね。
本作のテーマのひとつがFIREなので。
外資系食料品メーカーの事務職として働く元地下アイドルの華美は、
生活費を切り詰め株に投資することで、
給与収入と同じ配当を生む分身(システム)の構築を目論んでいる。
恋人の直幸は「使わないお金は死んでいる」と華美を笑うが、
とある人物率いるオンラインコミュニティ活動にのめり込んでゆく。
そのアップデートされた物々交換の世界は、
マネーゲームに明け暮れる現代の金融システムを乗り越えゆくのだ、と。
「外資系食料品メーカー」と言えば聞こえは良いですが、主人公の華美の税引前年収は250万円程度です。
その少ない収入を元手に米国高配当株への長期投資を実行中で、現在800万円の元金を1,500万円まで増やしています。
資産額5,000万円で年利5%年間250万円の配当収入を得るシステムを確立し「FI」を実現して今の冴えない生活を脱するのが目標です。
そのため彼女は費用対効果を強く意識した行動をとります。
友人の結婚式の二次会費用1万円を30年間複利運用して得られる4万3219円。
その友人との30年後の友情の継続可能性。
天秤にかけた結果、彼女は二次会を欠席します。
しんどいですね。
30年後の自由のために無理をして節約し続ける。
しかも30年後得られる所得は今の冴えない生活を支える年収と同等。
言いしれぬ焦りを感じて期間短縮のためにデイトレに手を出して資産を溶かしたりします。
これはしんどいです。
幸いわたしは海外駐在の間にいつの間にかお金が溜まっていて、ちょうどその頃に会社員生活に嫌気がさしてリタイアを実行したわけで、特に節約を意識したことはありませんでした。
ただ、もしも自分が貧しかった頃に「FIRE」なんて考え方にハマっていたら、元々嫌いな会社員生活に余計にストレスを感じていたかもしれません。
一方でわたしも早期退職後は費用対効果を意識した消費行動を取る場面が確実に増えました。
計算上は問題ないとわかってはいても、ぼんやりとした不安から過度に貧乏臭くなったりするんですね。
これはちょっと我が身に顧みて改善したいです。
物語は後半、主人公がある決断をして大きく動くんですが、ここから話が現実離れして行きます。
終盤がちょっと残念でしたが、色々考えることが多い作品でした。